肩甲骨の位置の左右差から関連する筋肉のバランスを分析する方法
肩甲骨の位置の違いは、子供からお年寄りまで多くの身体が持っていて、施術の現場だけでなく、日常生活でもよく見かける機会があります。
普段なら特に気にとめることがなくても、一歩踏み込んで肩甲骨の位置関係を調べることで、その身体の習慣やバランスを知る大きなヒントになります。
ここでは、左右の肩甲骨の位置を調べる方法と、そこから筋の緊張・弛緩のバランスを分析する方法について解説したいと思います。
肩甲骨の位置で分かる身体の癖や習慣
肩甲骨の位置は、どれだけ意識しても自分で調整することが難しく、私たち手技療法家にとっては、その身体の日々の習慣を探るとても良い指標になります。
身体の力を抜いてもらえば、無意識にその人にとって習慣的な位置にくるので、精神的な緊張などに左右されにくいのも特徴です。
また、立位・座位・伏臥位でチェックすることが可能なので、施術の途中でも確認がしやすいこともポイントです。
肩甲骨の位置が左右で違う原因
肩甲骨の位置を変化させる代表的な例として、長胸神経の支配を受ける前鋸筋が麻痺して起こる翼状肩甲や、側湾症による肩甲骨の偏位といったものがあります。
こういった例では、肩甲骨の左右差が大きく、左右の位置の違いは一目瞭然です。
しかし、多くの身体で起こっているのは、もう少し細かな位置の変化です。
バランス療法では、習慣から生まれる肩甲骨周囲の筋の緊張差によって、肩甲骨の位置に変化が起きていると考えています。
例えば、右の肩甲骨を挙上させる筋が、日常的に緊張すると、右の肩甲骨は左に比べて上方に偏位を起こすという風に捉えています。
肩甲骨の位置から筋の緊張差を分析する
こういった考えを持つと、肩甲骨の位置を触診し、左右の関係を調べることで、関連する筋の状態を考察することができます。
また、触診であらかじめ情報を得ておいて、さらに動作で確認すれば、触診の裏付けにもなりますし、より詳しく筋の状態を調べることができます。
肩甲骨の動きの分類
肩甲骨に触れる前に、肩甲骨の動きをイメージしておくと、触診した時に、肩甲骨がどのような状態にあるかが掴みやすくなります。
肩甲骨は、胸郭に沿って挙上・下制・外転・内転・上方回旋・下方回旋といった運動方向を持っていて、肩関節の運動に合わせて様々な方向に動きます。
肩甲骨を触診して左右を比較する際も、上記の方向に位置の変化が起きているので、
- 左に比べて右の肩甲骨が挙上している
- 左の肩甲骨の方が外転している
という風に、頭の中で肩甲骨を立体的に捉えていきます。
肩甲骨の位置を触診で調べるポイント
肩甲骨は通常だと、上の画像のように位置しています。
バランス療法では、肩甲骨の検査をする際、主に以下の項目を使って、肩甲骨の位置をチェックします。
- 胸椎から上角の距離
- 胸椎から下角の距離
- 左右の下角の高さ
それぞれの項目を実際に触ってみて、左右の位置の違いを丁寧に確認します。
肩甲骨の位置から動きを分析する
触診でチェックする項目と、得られた上方によって考えられる肩甲骨の状態を、表にまとめると、以下のようになります。
項目 | 触診 | 肩甲骨の偏位 |
---|---|---|
胸椎と上角の距離 | 狭い | 内転 |
広い | 外転 | |
胸椎と下角の距離 | 狭い | 下方回旋 |
広い | 上方回旋 | |
左右の下角の高さ | 高い | 挙上 |
低い | 下制 |
肩甲骨の位置を左右で相対的に見比べると、上の表の項目にはほとんどの場合左右差があります。
1例を挙げると
- 右の上角と胸椎の距離が左より狭い
- 下角は右の方が広い
- 高さは右の方が高い
という風に1つ1つ調べていけば、”右の肩甲骨は左に比べて内転している” または、”右の肩甲骨は左に比べて上方回旋し、やや挙上している”といった分析ができる様になります。
肩甲骨の動きと筋肉の作用
肩甲骨の触診し、肩甲骨の位置が左右でどの様になっているかを把握したら、その動きに作用する筋肉を結びつけます。
挙上と下制・外転と内転・上方回旋と下方回旋は、それぞれ拮抗する動きになっていて、基本的には筋肉の緊張が強い方に、肩甲骨が引きつけられます。
肩甲骨の動きと、作用する筋肉は、下の表の様になっています。
肩甲骨の動き | 作用する筋肉 |
---|---|
挙上 | 僧帽筋上部 肩甲挙筋 大・小菱形筋 |
下制 | 僧帽筋下部 小胸筋 |
外転 | 前鋸筋 小胸筋 僧帽筋上部 |
内転 | 僧帽筋中部 大・小菱形筋 |
上方回旋 | 前鋸筋 僧帽筋上部 |
下方回旋 | 僧帽筋下部 大・小菱形筋 小胸筋 |
触診で得られた肩甲骨の高さや、胸椎からの距離などの情報に、筋肉の作用を照らし合わせて考えると、以下の様なことが分かります。
- 右の肩甲骨が内転=僧帽筋中部が左より緊張している
- 右の下角が高い=僧帽筋上部が左より緊張している
- 右の下角が広い=右の前鋸筋が左より緊張している
肩甲骨の動きは6方向の複合的なものですが、丁寧に触診しながら考えていくと、位置の左右差はしっかりと見えてきます。
肩甲骨の触診だけでこれだけの情報が得られれば、施術の際には大きなヒントになるはずです。
分析だけでなく施術の評価にも有効
肩甲骨の位置の左右差を、最初にしっかりと分析しておけば、施術が身体にどの様な変化をもたらしたかを評価する上でも役立ちます。
例えば、右の僧帽筋が緊張していると判断して、施術を行い、施術後にもう一度同じ様に肩甲骨を触診します。
もし、術者の狙い通りに僧帽筋の弛緩が得られていれば、下角の高さは左右で均等になっていて、肩甲骨の位置の左右差が解消されているということになるでしょう。
反対に、肩甲骨の位置が狙い通りに変化しなかった場合は、アプローチを考え直すきっかけにもなります。
バランス療法では挙上と内転に注目
バランス療法の手技では、肩甲骨の位置の分析は必ず行うことにしていて、触診の練習も時間をかけて行います。
また、肩甲骨の偏位の中でも、特に挙上と内転を重視しています。
肩甲骨は、運動方向が多く、関与する筋肉も様々ですが、やはり僧帽筋上部には、肩が盛り上がって見える程、過緊張を起こしていることが多く、トラブルを起こしやすい筋肉だと言えるからです。
加えて、Basicコースで学ぶテクニックの中に、肩甲挙筋の調整があり、これは肩甲骨を内上方に引き上げる作用があるため、肩甲挙筋の緊張差を見極めるためにも必須です。
肩甲骨のチェックは、比較的取り入れやすい検査なので、ぜひ現場で活用してみてください。