真っ直ぐ寝ない患者さんは歪みを戻さずそのまま施術を始めるべき理由
施術をしようと患者さんに仰向けに寝てもらうと、患者さんの身体が真っ直ぐではなく、歪んで寝ているという状況には良く遭遇します。
バランス療法の施術に出会う前から、こういった患者さんには良く出会っていて、『頚が歪んでいますよ』『足が歪んでいますよ』と言って、体の歪んでいる部分を手で真っ直ぐに戻していました。
しかし、実はこの何気ないやり取りの中に、患者さんの筋・骨格の状態を知るヒントがあるという事に気付き、今では歪みを直さずにそのまま施術を開始しています。
以前セミナーで受講生の方から話題に出たので、考えたことを書いておこうと思います。
患者さんはどうして歪んだ姿で寝るのか?
施術をするベッドやマットに寝転んでもらうと、例えそれが狭いスペースでも、きっちり真っ直ぐに仰向けにならずに、体のどこかが歪んでいるという方は少なくありません。
どうして施術を受けに来られた患者さんは、真っ直ぐ寝ることができないのでしょうか?
寝転んで脱力した状態は安静時の筋緊張の影響を受けやすい
立位やその他の動作時でもある程度体の歪みはあるものですが、重力に対抗しその姿勢を保とうとする筋の緊張が持続的に続いてるため、寝ている時ほどの歪みが見えない事があります。
ところが、寝転んでしまって、重力の影響を受けにくい姿勢になると、全身の筋肉は弛緩してリラックスした状態になり、意識的に姿勢を補正できなくなります。
この時に、すべての筋肉が同じ様に弛緩した状態になれば良いのですが、そうはいきません。
日々の体の使い方を学習していくという筋の特性があるため、無意識のうちに弛緩しやすい筋肉とそうでない筋肉ができています。
これが、寝たときに体が真っ直ぐにならずに歪んでしまう正体だと考えられます。
安静時に起きる拮抗筋との緊張差が体の歪みの正体
施術をしていると、同じ患者さんを複数回見ることは当たり前にあると思いますが、よく思い出してみると、その患者さんはいつも同じ方向に体が歪んでいないでしょうか?
これは経験上ですが、ほとんどの方が同じ方向や、同じ部分が特徴的に歪んでいると思います。
施術を始める前に、患者さんの寝姿を見て、こんな風に感じると思います。
- 左足に比べて右足が外に開いている
- 頭の位置が体に対して左に傾いている
- ベッドやマットに対して対角に近い角度で寝ている
そして、毎回同じ歪み方で寝る患者さんには、高い確率で筋の習慣的な緊張差があると考えることが出来ます。
右足が左足より外に開くという場合は、左右の股関節の内外旋の拮抗作用が異なり、右足は外旋方向に優位になっていると考えられます。
同じ様に、頚部の傾きは左右の胸鎖乳突筋や斜角筋の緊張差が現れて、緊張の強い側に頭が傾くということが考えられます。
さらに頚部には側方への傾きだけではなく、回旋という動きが加わることもあるため、頭の傾きだけではなく、回旋傾向も注意深く見てみると、より胸鎖乳突筋の緊張差が分かるかもしれません。
歪んだ状態のままで施術を始めると治療の評価につながる
筋や関節に対しての治療を行う際に、共通の目標として、筋の過度な緊張・伸張制限・関節可動域の低下などを取り除き、痛みや不調の改善につなげたいというものがあると思います。
安静時の筋肉の緊張傾向を見ることは、そのまま運動時に起こり得るだろう筋の働きや、日常生活でどのような身体の使い方をしているかを考えるヒントになります。
また、施術した手技で筋の緊張と弛緩にどのような変化があったかを評価することにもつながります。
寝る姿勢は無意識的にとっているので術者の主観が入りにくい
患者さんが寝転んで、施術者が『体が歪んでいますよ』と声をかけても、ほとんどの場合患者さん自身にはそう言った自覚がありません。
自分では自然に真っ直ぐ寝ていると感じていることがほとんどです。
反対に、冒頭で述べたようにこちらが真っ直ぐに戻してあげると、違和感を覚えて『これで本当に真っ直ぐ?』と尋ねられると思います。
それだけ筋や関節の位置が習慣化されているので、どれだけ歪んで寝ていても何も違和感を覚えないと考えることが出来ます。
これだけ無意識化でやっていることなので、術者側の触診や検査で分かるわけではなく、客観的に身体に中心線を引いてみて、その歪みを評価するしかありません。
筋肉の緊張差が取れ拮抗作用が調和されると自然と真っ直ぐに
筋の緊張・弛緩・拮抗した筋肉の優位性などの評価は、もちろん寝た姿勢だけで全てが分かるわけではありません。
その他にも、様々な角度から筋や関節の状態を検査していきます。
そして、過度に緊張した筋肉に弛緩を狙って手技を行ったり、伸張性の乏しい筋肉に伸張性を与えて…と施術を行っていくと、患者さんの寝る姿勢にも変化が現れてきます。
仰向けになれば、何度も同じように表れていた身体の歪みが目立たなくなっていきます。
- 右足だけが外側に開いていたのが左右で差が少なくなった
- 頭の位置が身体の中心軸上に入ってきた
- 対角で寝ていたのがベッドの中心に寝るようになった
など、施術が進み筋肉の緊張差が少なくなっていくと、今現在進めていっている施術の方向性が、少なくとも筋肉のバランスを崩していっている訳ではないという事が分かります。
上でも述べた様に、これは術者側がコントロールできる訳ではなく、患者さんが無意識にとる姿勢だという事が、触診などの主観的な評価と異なり、術者にとって安心できる要因にもなります。
患者さんの寝る姿勢に関するまとめ
この様な微妙な変化を感じ取れるきっかけになるのに、施術前から術者が自分で患者さんの身体をまっすぐにしてしまうことは、とても勿体無いことです。
まずは、自然に寝たその姿勢を分析し、頭の中にとどめておく事が重要だと考えます。
また、無意識に作っている体の歪みを無理に正すと、その時点で患者さんは違和感を覚え、その緊張感からリラックスしにくい状態になってしまう事も考えられます。
安静時で、特に寝た姿勢は全身の筋肉を評価する1つのポイントに過ぎません。
ただ、安静時の筋肉の緊張・弛緩の状態は、全ての動作の基礎になるものでもあります。
全身の筋肉に過度な緊張が起こらず、前後左右の拮抗作用が調和している状態を目指していけば、関節の運動時にも、収縮するべき筋肉が収縮し、伸張されるべき筋肉がスムーズに伸張し、ストレスのない関節運動を作ることが出来るのではないでしょうか。