膝関節の屈曲に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説
膝関節の屈曲運動に作用する筋は、内・外側ハムストリングスが有名ですが、その他にも様々な筋肉が屈曲運動に関わっています。
このページでは、膝関節の屈曲に作用する筋の種類や、その起始と停止、支配神経や拮抗筋について詳しく解説します。
膝関節屈曲運動の概要
大腿骨・膝蓋骨・脛骨・腓骨からなる膝関節は、解剖学的基本肢位から、最大で135°の可動域を持ちます。
膝関節の屈曲運動は、前額軸・矢状面上の運動です。
膝関節の屈曲に作用する筋肉の一覧
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
大腿二頭筋 | 長頭 : 坐骨結節 短頭 : 大腿骨粗線 |
腓骨頭 | 長頭 : 脛骨神経 短頭 : 腓骨神経 |
L5 – S2 |
半腱様筋 | 坐骨結節 | 脛骨骨幹部内側 | 脛骨神経 | L5 – S2 |
半膜様筋 | 坐骨結節 | 脛骨内側顆 | 脛骨神経 | L5 – S2 |
縫工筋 | 上前腸骨棘 | 脛骨骨幹部内側 | 大腿神経 | L2 – L3 |
薄筋 | 恥骨 | 脛骨骨幹部内側 | 閉鎖神経 | L3 – L4 |
大腿筋膜張筋 | 腸骨稜 | 脛骨外側顆 (腸脛靭帯) |
上殿神経 | L4 – S1 |
膝窩筋 | 大腿骨外側顆 (膝関関節包) |
脛骨内側 | 脛骨神経 | L4 – S1 |
腓腹筋 | 内側頭 : 大腿骨内側顆 外側頭 : 大腿骨外側顆 |
踵骨(アキレス腱) | 脛骨神経 | S1 – S2 |
膝関節の屈曲に働く筋肉は、上の表の通りです。
大腿二頭筋と半腱様筋・半膜様筋を合わせてハムストリングスといい、屈曲の主動作はハムストリングスが行なっています。
それぞれの筋について、さらに詳しく見ていきましょう。
膝関節屈曲の主動作筋ハムストリングス
膝関節の屈曲運動に、主に作用するのはハムストリングスです。
ハムストリングスは、内側・外側ハムストリングスに別れていて、内側ハムストリングスは半腱様筋・半膜様筋の2つの筋肉、そして外側ハムストリングスは大腿二頭筋という筋肉で構成されています。
大腿二頭筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
大腿二頭筋 | 長頭 : 坐骨結節 短頭 : 大腿骨粗線 |
腓骨頭 | 長頭 : 脛骨神経 短頭 : 腓骨神経 |
L5 – S2 |
大腿二頭筋は、ハムストリングスを構成する筋肉で、外側ハムストリングスと呼ばれています。
長頭と短頭の二頭を持つ筋肉で、坐骨結節・大腿骨内側から起こり、外下方に走行し、腓骨頭周囲に停止します。
長頭の走行は長く、股関節にもまたがる二関節筋で、短頭は膝関節の運動のみに作用する単関節筋です。
また、2つの筋は神経支配も異なっていて、長頭は脛骨神経、短頭は腓骨神経にそれぞれ支配されています。
大腿二頭筋全体としては、内側ハムストリングスと共に、膝関節の屈曲に作用しますが、その他にも長頭には以下のような作用があります。
- 股関節伸展時 : 股関節の外旋
- 膝関節屈曲時 : 膝関節の外旋
起始と停止を見てもそうですが、純粋に膝関節の屈曲筋として作用するのは、大腿二頭筋短頭の方です。
半腱様筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | LV |
---|---|---|---|---|
半腱様筋 | 坐骨結節 | 脛骨骨幹部内側 | 脛骨神経 | L5 – S2 |
半腱様筋は、大腿二頭筋と同じく坐骨結節から起こり、大腿後面の内側を走行し、脛骨内側に停止します。
この筋肉と半膜様筋で内側ハムストリングスを形成します。
この時、半腱様筋と縫工筋・薄筋の腱が合流し、鵞足と呼ばれる薄い腱膜を形成します。
大腿二頭筋と半膜様筋と共に、膝関節の屈曲に作用しますが、股関節にまたがる二関節筋であるため、股関節の運動にも作用します。
半腱様筋が持つ膝関節屈曲以外の作用には、以下のようなものがあります。
- 股関節伸展
- 股関節内旋
- 膝関節内旋
半膜様筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | LV |
---|---|---|---|---|
半膜様筋 | 坐骨結節 | 脛骨内側顆 | 脛骨神経 | L5 – S2 |
半膜様筋は、半腱様筋と同じく坐骨結節から起こり、半腱様筋より深層を走行します。
半腱様筋よりも、広い範囲で走行し、一部大腿二頭筋を包むように走行しています。
半腱様筋と同じく二関節筋であるため、膝関節屈曲の他にも、股関節の運動に作用します。
半膜様筋が持つ膝関節屈曲以外の作用には、以下のようなものがあります。
- 股関節伸展
- 股関節内旋
- 膝関節内旋
膝関節の屈曲に補助的に働く筋肉
ここからは、ハムストリングス以外の、膝関節屈曲を補助する筋肉を解説します。
膝関節の屈曲運動を安定させるため、内・外側から様々な筋が屈曲のサポートしています。
縫工筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | LV |
---|---|---|---|---|
縫工筋 | 上前腸骨棘 | 脛骨骨幹部内側 | 大腿神経 | L2 – L3 |
縫工筋は、上前腸骨棘から起こり、大腿前面を外側から内側に向かって走行する、人体の中で最も長い筋肉です。
大腿の前面を走行していますが、停止部で脛骨の内側後面に回り込んで付着しているため、膝関節の屈曲に作用します。
また、半腱様筋・薄筋と共に鵞足となっていることからも、これらの筋が協調的に作用する事が分かります。
とはいえ、あくまでも補助的に膝関節の屈曲に作用する筋肉で、他の作用には以下のようなものがあります。
- 股関節の屈曲
- 股関節の外転
- 股関節の外旋
薄筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | LV |
---|---|---|---|---|
薄筋 | 恥骨 | 脛骨骨幹部内側 | 閉鎖神経 | L3 – L4 |
薄筋は恥骨下枝から起こり、半腱様筋・縫工筋と共に鵞足となって脛骨内側に停止する筋肉です。
恥骨から垂直に脛骨内側部に向かう筋肉なので、膝関節の屈曲には補助的に作用し、主な働きには股関節の内転があります。
薄筋は大腿内側の最も浅層を走行する筋肉で、閉鎖神経の支配を受けています。
大腿筋膜張筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
大腿筋膜張筋 | 腸骨稜 | 脛骨外側顆 (腸脛靭帯) |
上殿神経 | L4 – S1 |
大腿筋膜張筋は、腸骨稜から起こり、腸脛靭帯に付着する筋肉です。
大腿筋膜張筋は、膝関節の伸展に作用する筋肉の中にも入っていて、膝関節の角度によって屈曲にも伸展にも作用します。
いずれも主な動作というわけではなく、膝関節の運動を安定させるために補助的に作用します。
膝関節の屈曲には、屈曲30°以上の時に働きます。
膝窩筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
膝窩筋 | 大腿骨外側顆 (膝関関節包) |
脛骨内側 | 脛骨神経 | L4 – S1 |
関節包や外側半月板にも付着していて、運動作用としての働きは少ないですが、膝関節の屈曲をサポートしています。膝窩筋は、大腿骨外側顆から起こり、内下方に走行して、脛骨の内側に停止する小さい筋肉です。
外側から内側に向かうその走行から、膝関節の内旋にも作用します。
腓腹筋の作用・起始・停止・支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
腓腹筋 | 内側頭 : 大腿骨内側顆 外側頭 : 大腿骨外側顆 |
踵骨(アキレス腱) | 脛骨神経 | S1 – S2 |
腓腹筋は、ふくらはぎで知られる筋肉で、主な作用は足関節の底屈ですが、膝関節屈曲の補助筋としても働きます。
腓腹筋は大腿骨の内・外側から起こり、踵骨に向かって走行する2関節筋であるため、足関節だけでなく膝関節の運動にも作用します。
大きな筋腹を持つため、収縮すると強い力を発揮しますが、膝関節の屈曲にはあくまでも補助的に作用します。
膝関節屈曲の拮抗筋
膝関節屈曲運動の拮抗筋は、膝関節の伸展に強力に作用する大腿四頭筋です。
その他にも、大腿筋膜張筋が伸展の補助筋として挙げられますが、角度によっては屈曲運動にも関与するので、純粋に拮抗作用を持つのは、大腿四頭筋でしょう。
大腿四頭筋の走行と支配神経
筋肉名 | 起始 | 停止 | 支配神経 | Lv |
---|---|---|---|---|
大腿四頭筋 | ||||
1.大腿直筋 | 下前腸骨棘 寛骨臼上縁 |
脛骨粗面 | 大腿神経 | L2 – L4 |
2.中間広筋 | 大腿骨前面 | 脛骨粗面 | 大腿神経 | L2 – L4 |
3.内側広筋 | 大腿骨粗線内側唇 | 脛骨粗面 | 大腿神経 | L2 – L4 |
4.外側広筋 | 大腿骨粗線外側唇 | 脛骨粗面 | 大腿神経 | L2 – L4 |
膝関節屈曲筋であるハムストリングスが、坐骨から起こるのに対して、大腿四頭筋は腸骨の前面や大腿骨の前面から起こります。
走行が腹側と背側に分かれているので、関節運動の拮抗作用がイメージしやすいですね。
膝関節を伸展させる筋肉については、別のページで詳しくまとめています。
膝関節の屈曲に作用する筋のまとめ
膝関節の屈曲に関わる筋肉は、種類が多くあるのですが、そのほとんどは補助的な作用で、主な屈曲運動はハムストリングスが収縮することで起こっています。
バランス療法では、膝関節の屈曲筋と伸展筋の緊張差を比較する検査で、必ずこの筋肉のバランスを調べ、施術に活用します。
膝関節の屈曲筋は、腰椎ヘルニアや坐骨神経痛などによって痛みが発生しやすい筋肉群でもあり、正確に筋の状態を調べることはとても重要です。
セミナーで学ぶ手技にも、膝関節の屈曲に作用する筋の弛緩を狙った手技がいくつかあるので、筋の走行をイメージして、実際の施術現場でも有効に使えるように練習しましょう。