2018年10月の東京手技セミナーは脛骨神経からの調整を行いました
各スポーツに基本動作があるように、バランス療法の手技にも術者の基本の動作があります。
その基本動作を習得すれば、手技の大半はマスターしたと言っても過言ではありません。
今月の手技は脛骨神経からの調整です。手技の中でも単純な手技ですが、この手技を習得し、さらに動作の分析できるようになれば治療師の視点であらゆる事に応用できるようになります。
脛骨神経の調整を学ぶ
脛骨神経の目的
左右の脛骨神経系の筋肉の緊張差を確認し、緊張側を弛緩又は弛緩側を緊張させて左右が同じ筋機能にすることが目的です。
関連する筋肉
この神経支配で一番影響がある筋肉は、大腿二頭筋長頭になります。
他には半腱半膜様筋、腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋などが対象の筋肉になります。
左右の筋肉を検査で確認
膝関節検査や股関節検査を他動的に行うことで脛骨神経支配の筋肉の左右差を確認する事が出来ます。
脛骨神経支配の筋の緊張側は、股関節は伸展が、膝関節は屈曲が、足関節は底屈が優位になります。さらに足趾は屈曲が優位に働き、立位で確認すると左右差が確認できるケースは多くあります。
股関節伸展のもう一つの筋肉
手技を行う上でもう一つ確認が必要な筋肉があります。下殿神経支配の大臀筋です。
股関節検査で外旋差で大臀筋の緊張差を確認します。
脛骨神経支配筋が緊張側の大臀筋が緊張か弛緩かで手技を行う方法が異なってきます。
脛骨神経の調整の押さえる場所
受け手を伏臥位にさせ、足底の脛骨神経の末端部分を母指で押さえます。経絡で言う湧泉のやや内側です。
押さえる時、母指以外の指は受け手の足に当たらないように気をつけます。
術者が押さえる方向
同側で筋緊張の場合は、股関節は外旋優位に機能しているため、押さえる母指で足関節を内反させて押します。それにより受け手に股関節は内旋し、下肢全体の調整を行うことが出来ます。
脛骨神経系の筋の緊張側が大臀筋が弛緩している場合は、股関節が内旋優位のため、足底を押さえる際、足関節が内反しないように押さえます。
手技の呼吸
脛骨神経支配の筋肉が緊張している側に手技を行うため、呼気で押さえ始め、呼気で終わります。
検査で確認
股関節検査や膝関節検査で左右の動作の変化を確認します。特に膝の屈曲の変化が確認出来れば充分です。
ダイナミックな手技ではありませんが、1手技で下肢の運動機能が少しでも変化することはとても重要な事です。
ここでは触れませんでしたが、上肢の運動差もこの手技で変化します。事前に上肢の検査を行っていれば、もし下肢の検査を間違っていても、間違いに気づくヒントを上肢の検査が教えてくれます。
脛骨神経からの調整の症例
この手技のみで臨床をすることなどありません。拮抗筋となる膝関節伸展筋の手技や上肢の手技などを組み合わせます。
しかし、この手技を患者さんに行っている最中に過去にこんな事を言われました。
腰椎椎間板ヘルニア
・足の裏を押さえてもらった時からスゥーっと足全体に血が通った感じがして温かくなり、痺れが消えていく感じが分かった。
この感想はよく言われます。ヘルニアに限らず、膝痛の患者さんなどに血が通って温かく感じるそうです。
腰椎椎間板ヘルニアの好発部位であるL4,5は脛骨神経(坐骨神経)に大きく関連します。
便秘
・押さえ出し数秒後にお腹がグルグルと動きだし、施術後に久し振りに便が出た。
腸の働きを変化させるために手技をするわけではありませんが、脛骨神経はL4からS3から発しているため、足底部の刺激が腰椎全体に影響を与え、腸の機能に変化が期待出来ます。
その他にも、股関節痛(先天性ではない症状)、頭痛や顎関節症などで大きな変化をしたケースがありました。
術者の動き
セッティング
大きく分けて下半身と上半身の準備が必要です。
下半身
正座した状態から左右の下肢を回旋(内外旋)させることで、下肢全体に筋収縮を与え術者の身体を安定させます。
上半身
正座した状態から左右の上肢の各関節に運動差を与え、母指を押しやすくします。
母指を使用する側の肩関節は伸展、肘関節は屈曲、手関節は背屈をすることで手技の時の母指の動きが効率的になり、安定した刺激を与えることが出来ます。
母指を使用しない側の動きも重要となり、上記の各関節の真逆の動きをする事で、術者は中心軸を取りやすくなります。
手技時
先ほどのセッティングの下肢上肢の各関節の動きを真逆にし、母指で受け手の足底部を軽く圧を入れ刺激します。
呼気で押さえ、5回ほど呼吸を待ち、また呼気で母指を離します。
指圧とは違うので、痛みを伴う刺激ではありません。
手技終了時
手技時の動きと真逆、セッティング時のポジションに戻します。
一連の動作での術者の身体は、手足はダイナミックに動くものの、頭位は変化せず同じ位置でキープしていることが理想的です。
右足底の例
受け手の右足底への手技の場合を例に解説します。
・セッティング
右、股関節外旋やや屈曲。
左、股関節内旋やや伸展。
右、肩関節伸展、肘関節屈曲、手関節背屈。
左、肩関節屈曲、肘関節伸展、手関節掌屈。
・手技時
右、股関節内旋やや伸展。
左、股関節外旋やや屈曲。
右、肩関節屈曲、肘関節伸展、手関節掌屈。
左、肩関節伸展、肘関節屈曲、手関節背屈。
・手技終了時
右、股関節外旋やや屈曲。
左、股関節内旋やや伸展。
右、肩関節伸展、肘関節屈曲、手関節背屈。
左、肩関節屈曲、肘関節伸展、手関節掌屈。
と、なります。
文字で書くと以上のようになりますが、実際は左右の大胸筋や広背筋の収縮と弛緩の使い分け、大腿四頭筋やハムの使い分けなど、文字だけでは伝わらない部分もあります。
セミナー後記
今回は病気等でセミナー生が休み、人数が少なかったセミナーになりましたが、今回セミナー見学の柔道整復師の方が最後まで練習にお付き合い頂いたおかげで良い練習が出来ました。
今月の手技は本当にシンプルな手技で、ベテランになると少しいい加減になる手技でもあります。しかし、基本動作を忠実に再現しないと結果が出にくい手技でもあり、他の手技の精度を高める上でも非常に重要な手技です。しっかり頭で整理し、練習してほしい手技です。
東京は大阪と違いまだまだ少ないですが、大阪が歯科医師の先生の参加が増えているように、東京も歯科医師の先生の参加が増えていくと思います。
そのためにも現セミナー生の技術力をしっかり上げていかなければいけないと思います。
そして来年は、もっと手技とは違うアプローチの方法を公開し、本当に困っている人の改善のお手伝いが出来ればと思っています。