2018年8月の大阪セミナー は伏臥位の牽引という手技を行いました
2018年8月5日に大阪上本町で開催した手技セミナー は、『伏臥位の牽引』という手技をテーマに行いました。
バランス療法の手技には、下肢を牽引する手技が仰臥位と伏臥位の2種類あり、それぞれ『表の牽引』と『裏の牽引』と読んでいます。
今回の手技は、伏臥位で行う裏の牽引で、股関節を伸展方向に牽引し、腸腰筋や大腿四頭筋などの筋の伸張を目的に行います。
股関節屈曲筋の緊張を左右で比較する
今回の手技の狙いは、緊張した股関節屈曲筋を伸張させ、弛緩させることにあります。
そのため、股関節屈曲筋の緊張を左右で比較し、緊張している側に手技を行います。
股関節屈曲筋の種類
股関節の屈曲に作用する主な筋肉には、以下の種類があります。
- 大腰筋
- 腸骨筋
- 大腿直筋
- 縫工筋
この中でも、今回の手技で特にアプローチしたいのが、大腰筋と腸骨筋です。
2つの筋肉は、合わせて腸腰筋と呼ばれていて、股関節屈曲の主動作筋になっています。
それ以外にも、腰椎の屈曲や側屈、骨盤の前傾にも作用する筋肉なので、左右の緊張差が大きくなると、腰椎の左右の支持が偏ってしまうと考えています。
股関節の屈曲に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経についてはこちら
膝関節の屈曲検査で緊張を確認する
股関節屈曲筋の、左右どちらが緊張しているかを調べるために、バランス療法では膝関節の屈曲検査を用います。
膝関節を他動的に、左右同時に屈曲させていくと、片側に抵抗を感じて、膝関節屈曲可動域に左右差が見つかります。
他動的な屈曲運動に対して、反発が強いということは、膝関節伸展筋が緊張していて、伸張に対して抵抗しているということが分かります。
膝関節を伸展させる主な筋肉は大腿四頭筋で、その中の1つである太腿直筋は、股関節の屈曲筋でもあります。
この事から、膝関節伸展筋の緊張側は、協調的に働く股関節屈曲筋も緊張していると考えることができます。
膝関節の伸展に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経についてはこちら
股関節屈曲筋の緊張側に手技を行う
膝関節の屈曲検査で、股関節屈曲筋の緊張側を判別できたら、緊張している側に対して、手技を行います。
手技を行う側の下肢の中心にポジションを取り、片側の母指でアキレス腱の内側を固定します。
もう一方の母指も上から覆うようにして固定して、セットします。
あとは、呼吸のタイミングを見ながら、下肢全体をゆっくり牽引していきます。
十分に牽引ができたら、4〜5回の呼吸を待って手技を終えます。
末梢牽引をしないよう方向に注意する
『下肢を牽引する手技』と聞くと、ただ末梢方向に下肢を引っ張ってしまいます。
しかし、この手技も目的は股関節の屈曲筋を伸張させることにあります。
股関節の屈曲筋を伸張させるには、股関節を伸展方向に動かす必要があります。
また、大腿直筋は膝関節の伸展筋でもあるため、十分に伸張させるためには、膝関節を屈曲方向に動かさなければ、筋肉は伸張されません。
伏臥位の牽引を行う時は、この意識が絶対に必要で、牽引する際の方向は末梢ではなく、後上方に向かって牽引を行います。
術者のポジションに注意する
両手でアキレス腱内側を固定し、股関節を伸展方向に動かすとなると、術者は受け手の足に対して、どのようなポジションに位置するかは非常に重要なポイントです。
強く牽引しようと、遠い位置から手技を開始すると、股関節を伸展方向に動かすことができず、末梢への力が強くなります。
最初は窮屈に感じるかもしれませんが、受け手の下肢とはできるだけ近づいて、ポジションを取るようにしましょう。
うまく手技ができるようになると、股関節から大腿前面にかけての筋全体をしっかり伸張することができるようになります。
伏臥位の牽引のまとめ
この手技は、股関節屈曲筋の緊張を取り、左右の筋機能を整えることができる手技です。
腸腰筋の機能が左右均等になると、腰椎を左右対称に支えることができるようになり、姿勢が安定します。
あくまでも、股関節屈曲筋を介して全体を整えるために行う手技ではありますが、腰痛や椎間板ヘルニアなど、腰椎にかかる力が不均等になっている症例の場合は、この手技をよく用います。
左右の重心機能、腰椎の安定した支持を得るためには必ず覚えておきたい手技なので、操作やポジションに慣れるまでは、繰り返し練習しましょう。