キックボクシングで足関節捻挫をした男性の施術録
今回の男性に初めて施術をしたのが2000年。それからは1〜2月に1回程度メンテナンスとして施術に来られていました。
普段特に症状はないのですが、今回はジムでトレーニング中に右のハイキックをやろうとして、軸足である左足首を捻挫したと連絡がありました。
普段外傷による痛みがある状態で施術をする機会はそんなに多くないのですが、今回の男性のように何度か施術を受けられている方は病院に行く前に連絡をくれることがあります。
そんな時は電話で怪我の経緯などの説明を聞くのですが、足関節の外側に腫れと強い痛みがあるという訴えだったので、骨折や靭帯損傷などの可能性を考慮して、病院に行ってレントゲンなどの検査を受けて下さいと伝えました。
骨折や靭帯損傷はないとのことで来院
病院での診察の結果、骨折はなく捻挫と診断を受けます。安静にしておけば徐々に痛みも引いてくるだろうと病院から言われた為、しばらく固定して安静にしていたそうです。
出張先で怪我をしたので、こちらには受傷から約10日後に松葉杖をついて来られました。
受傷当初に比べると腫れや痛みは引いてきたとのことですが、10日経っても足の裏を地面に着けて歩くことができずかなり痛そうな様子でした。踵をつけた状態ではなんとか歩けるということで、松葉杖をつきながら足関節を背屈位にしたまま歩いています。
よくある足関節の捻挫は外果の少し前にある前距腓靭帯を痛め、その周辺が腫れたり内出血することが多いですが、今回はキックボクシングのトレーニング中という特殊な環境だったので、外果周辺ではなく足根骨の立方骨周辺を痛めたようです。
来院時には皮下出血こそ無いものの500円玉くらいの大きさの腫れがあり、僕が指で軽く触れるだけでも強い痛みが出ました。
とにかく歩きにくいし、痛みが強いのでなんとかして欲しいとのこと。
身体の状態を把握するために関節の可動域を検査する
私はどんな症状を訴える方が来られても施術をする前に必ず全身のチェックを行います。
特に肩・膝・股関節は人体の中でも大きな関節で、関連している筋肉も多いのでこの3関節の動きを中心に調べます。各関節の動きからそれぞれ筋肉の左右の緊張差を調べていきます。
各関節を屈曲・伸展・内外旋と動きをみていくと、筋肉の緊張差がどの方向にどれだけ存在するかを把握することができます。
外傷があって一つ一つの施術による患部の変化が分かりにくい場合でも、先に検査をしっかりしておけば施術の方向性を筋肉の緊張差で評価することができます。
今回のケースでは左右の膝関節の可動域を調べていた時に大きな特徴がありました。
この患者さんはいつも右膝が左膝よりも少し屈曲の可動域が少ないという癖をもっているのですが、今回は右膝の屈曲が30°くらいでストップ。右大腿四頭筋に伸張性がなく、押している手に強い抵抗感を感じます。
反対に患側である左膝は屈曲に抵抗感がなく、スムーズに屈曲できます。右と左の屈筋と伸筋に大きな左右差があることがわかりました。
原因として考えられるのは、松葉杖生活をしたことで右足に荷重の大半がかかり、右の大腿四頭筋に強い緊張があるのではということです。10日間程度の松葉杖生活ですが、予想以上に身体に変化があることを実感します。
下肢の筋肉に大きな左右差があるので、上肢・体幹の筋肉の状態も注意深く検査をします。肩関節の動きから広背筋や大胸筋の動きを観察します。
今回は上肢の筋や、体幹の筋肉に大きな変化が見られなかったので、下肢に注意を向けることにします。
身体の状態を把握できたので施術を組み立てる
今回の施術の目的は、足関節捻挫の痛みを少しでも緩和させてあげることです。また血流を改善して患部周辺の軟部組織が早く回復できるように、環境を整えてあげることです。
バランス療法は、人間のあるべき骨のポジションや筋の緊張差を無くして左右同じにしてあげることで身体本来の状態に導くことを目的としています。
これは主観ですが、筋緊張の左右差がなければ血流も良く左右差があれば血流も悪くなります。今回のような捻挫も出来る限り炎症を早く抑えるために、血流をよくしてあげた方が良いというように考えます。
筋や骨格を元の働きに戻すだけの単純な考えですが、人の機能が最大限発揮出来る位置でもあり、結果的に患部の炎症を抑えるのに有効な手段だと考えています。
下肢の筋肉の左右差が大きいため、下肢の筋を中心にアプローチ
検査で確認していた右大腿四頭筋の強い緊張。そして患側である左足は大腿四頭筋に緊張感はなく、代わりに拮抗筋のハムストリングスの緊張がみられます。
患部は触れても動かしても痛みがあるので、直接触れる手技や近接部位への施術は避けて、まずは患部と反対側から施術を開始します。
右の大腿神経系の筋肉の弛緩を狙って施術を行い、再度検査をしたところ、最初の検査の時よりも右膝と左膝の屈曲に差が少なくなっていることが確認できました。
続けて施術をしていると、施術中に感じていた寝返りなどの体位変換時に感じていた痛みが少し楽になっているとのこと。
仰臥位で足関節を底背屈してもらいましたが、この動きもあまり痛みを感じないとのことでした。
そこで患部付近を触れてみましたが、痛みを感じなかった為、患側にも施術を行うことにします。左の坐骨神経系の筋肉の弛緩を目的に施術し、再び両膝の検査をしてみると可動域が左右同じになっているのが確認できました。
明らかに膝関節の動きが良くなっているので、これは患部の痛みにも少し変化が出ているのでは?と思い、立って歩いてもらうことにします。
施術前は左に体重どころか、左足の裏が床に触れるだけで痛みが出る感じだったのが、痛みがありながらも左に体重が乗せれる程度まで回復し、痛みで触ることができなかった立方骨も8割ぐらい痛みが引いてくれました。
患部に直接触れることなく周囲の筋への施術で改善
これまで何度か足関節捻挫の施術を経験したことがありますが、これまでも今回も、身体全体を見て筋肉の緊張差を把握し、それに対して施術を行うことで痛みを改善することができました。
痛みが少なくなったとはいえ、患部の修復にはやはりそれなりの期間が必要です。男性には安静を伝えてこの日の施術を終えました。