腰椎椎間板ヘルニアで苦しむ22歳の美容師の女性を施術しました
美容師の職業病について
仕事をすれば誰でも疲労をします。そしてその職種なりにそれぞれ違った肉体の疲労があると思います。
重たい物を持つ仕事は筋肉の疲労。職場の気温など職場環境から起こる疲労。職業別にある独特の作業姿勢による疲労など多岐にわたると思います。これらの疲労の回復が出来ぬまま蓄積すると、左右対称性に機能する筋機能に異常が生じ、骨格に影響を与え痛みとして現われます。
約20年間様々な患者さんと出会い施術してきましたが、中でも美容師さんの患者さんが多く、そのほとんどの方が腰痛で来院しています。やはり、長時間の立ち仕事や無理な姿勢(特に洗髪)が全身の筋肉に負担をかけ、偏った筋緊張が脊柱を傾け腰痛を引き起こしていると思います。
美容師さんにとって腰痛は職業病の一つだと言っても過言ではないです。そして腰椎椎間板ヘルニアも多いように感じます。
腰椎椎間板ヘルニア
以前ぎっくり腰で来院した美容師さんから、スタッフの女の子が腰痛で仕事ができる状態じゃないので一度みて欲しいと連絡がありました。
22歳の女の子ですが、もう何年も前から腰痛があったそうです。シャンプーや立ちっぱなしで仕事をしているとどんどん痛みが増し、昨年の11月に病院を受診。MRIで撮影した結果、腰椎椎間板ヘルニアと診断されたそうです。
その後痛みを我慢しながら仕事を続けていると、だんだん症状が悪化し4月に入って右の足首周辺の激痛で歩くことができず来院しました。
今回のヘルニアの症状
症状は右足首周辺と足の裏に強い疼痛と、そして左大腿内側〜下腿内側〜足関節にかけて痺れがありました。直接肌に触れても感覚が無い状態(感覚鈍麻)です。
腰にも痛みはありましたが、我慢出来る程度の痛みだったようです。右の下肢の感覚は正常、左下肢の運動系も正常に機能していました。
歩行時に強い痛みがあり、左に重心を置き右足を浮かす感じでしか歩けませんでした。睡眠時は痺れと痛みで眠りが浅いとの事です。半年前に比べると症状は悪化しているとの事でした。
バランス療法では、筋骨格が左右対称性に機能しているか否かを重要視するため、施術するにあたり症状を優先しません。症状を無視することはありませんが、一情報として認識します。
施術において重要な情報は、現時点での患者さんの四肢の動きや全身の筋骨格がどのように機能しているか?症状を改善するためにはとても重要な情報です。この情報は、他動運動による検査で確認することが出来ます。
症状(痛み)は結果であり原因ではありません。筋骨格の機能異常(歪み)が原因と考え、この歪みが結果として症状に至ったと思います。
症状に対するアプローチではなく、あくまで全体の筋骨格のポジションに重点を置き分析し施術を行います。
筋肉の働きを検査する
静的検査
寛骨の状態を知ることで手技の判断基準にします。特に腰椎椎間板ヘルニアの患者さんの場合、左右どちらが重心側か知りたい重要な情報の一つです。腹臥位にて左右の腸骨稜の高さを確認します。
比較すると左の腸骨が後傾し、右の腸骨の方が高い位置にあることが確認できました。
正常であれば寛骨の高さは左右同じです。しかし高さの違いがあれば腰椎や仙骨や大腿骨に関係する関節や神経にも影響を与えます。
上記は寛骨を主語にしましたが、寛骨に左右差があるから他部位にも影響をしているのではなく、寛骨を含めた全身の骨格が異常を来しているという考えです。ただ確認し易い寛骨をチョイスしただけです。
そして寛骨を含めた全身の骨格の左右差の原因は、全身の筋の左右差が緊張差が作り出したと考えます。
四肢の検査
他動運動での膝屈曲検査は、右の膝の屈曲がスムーズに曲がり、左の膝は屈曲が90度くらいで左下肢に痺れが出ました。この結果を素直に受け止めれば、伸長作用の抵抗が強い左大腿四頭筋が右より緊張し、拮抗作用のあるハムストリングスは右が緊張していることが分析できます。
しかし今回は左下肢に痺れがあるので本来の筋肉の状態かどうか疑い、施術しながらこの疑問を解決しなければならないと判断しました。
股関節の開閉検査は、右の股関節外旋の可動域は狭く、左の股関節外旋の可動域は右より大きく広がりました。臨床経験での話ですが、左右の股関節の外旋運動を比較した時、遠心性の動きをする関節ほど痺れが出やすいです。この患者さんも左の股関節の方が外旋傾向が強くなっていたので、症状の一つである感覚鈍麻も納得しました。この左股関節の遠心性を作り出している可能性の左大臀筋や外旋六筋の筋緊張を左右同じにし、寛骨とその周辺の筋骨格の環境を安定させ症状の改善に繋げるように考えます。
上肢の検査は、右の肩関節の方が屈曲可動域が良く、左の肩関節の屈曲は100°くらいで引っかかる感じで運動制限がありました。
一般的に関節可動域は広ければ広いほうが良いと言われていますが、バランス療法では左右の同一関節の可動域は、左右同じ可動域が一番良いと考えています。左右が同じ可動性=関節を動かす筋肉が左右対称に機能している証にもなります。
左右の関節可動域に違いがあると、筋の機能差であり、骨格のポジションの差でもあります。この筋骨格の差が身体の歪みであり、この歪みが痛みや痺れを引き起こしていると考えます。
ヘルニアに対しての施術も全身から
検査から手技を組み立てますが、今回は右の足関節に疼痛と左下肢に痺れがあるため、上肢の手技を選択し左右の運動機能を同じにすることで、肩甲骨、頭蓋骨、脊柱に関連する左右の筋緊張を整え、患部から遠い場所から施術することにしました。
まず検査によって分析した右三角筋前面や右僧帽筋の緊張、左大胸筋や左広背筋緊張などを揃え、最初より上肢の可動の左右の差が減ったことを確認し、症状の変化を確認しました。
上肢の手技のみで大幅な症状の改善を期待しませんが、歪みの見立ての方向性が間違っていなかったら何らかの症状の改善が見られることが良くあります。
今回は残念ながら上肢の手技のみでは下肢の症状の変化は起きませんでした。しかし上肢が揃ったことで下肢の手技をする際に、「左右の下肢の見立てが正しいのか間違っているのかを揃った上肢で確認できます。」選択した下肢に手技を行い、上肢に差が生じたら下肢の検査(見立て)ミスです。逆に上肢が揃ったままであれば、四肢の検査に間違いがなかったことの証明になります。
本来はミスをせずに施術を進められたら良いのですが、人間の筋肉を正確に分析することは大変難しい作業です。しかしミスが確認できれば、作業を一つ後ろに戻せば良いだけです。この様に一つ一つ丁寧に分析と確認の繰り返しで施術することが出来るのがバランス療法の利点です。
今回は最初の検査通りに手技を行い、上肢にもエラーが起きませんでした。右の坐骨神経系の筋緊張を緩める手技と左の大腿神経系の筋緊張を緩める手技を中心に行いました。
施術後
症状もきつかったので施術時間は短めで15分弱で終わりました。四肢のアンバランスな動きは対称性に機能し、症状は左下肢の痺れは残ったものの、右の足関節の周辺の痛みはほぼ改善し普通に歩ける様になりました。
ただこれまでと同じように仕事をしていると同じ事の繰り返しなので、上司の人と相談して一定期間だけ勤務時間の短縮をした方が良いと提案しました。
あと、シャンプーやカラーや雑用時の身体の使い方の説明もし、普段から身体に負担をかけない身体の使い方も覚えてもらいました。
2回目、3回目
2回目来られた時は、右の足関節周辺の痛みは全く無くなったみたいなのですが、右の臀部に痛みがあって歩き難いとのことでした。
前回無かった症状を患者さんが訴えると一瞬検査が間違ってたかな?と、前回の施術時の検査に対して不安を覚えるものです。しかし、同じ様に四肢の検査をすると、下肢上肢共に前回より可動性が良く、左右対称性に筋骨格が機能していることが確認できホッとしました。
患者さんの一言で、自分の手技に疑問を感じることは現場ではよくあります。しかし一旦冷静になり、一番重要視している筋骨格が左右対称に機能しているか否かを確認すれば、自ずと答えは見えてきます。
前回の見立てのまま施術し、2回目で右股関節の痛みが改善し、3回目で左下肢の痺れがかなり落ち着いてきました。
その後
5回目ぐらいで、患者さんの自覚症状は全く無くなりました。仕事も通常業務に戻れ、8月にスタイリストデビューしたそうです。仕事も忙しくなかなか施術には来れないはずですが、疲労が溜まれば身体も歪み、再発の恐れもあるので定期的に来てくれるといいのですが…
まだ22歳という若さもあると思いますが、若いと改善するのも早いです。しかし若くても身体が歪めば、仕事が出来ないほど人の身体は自由を奪われるのです。