急性腰痛になった15歳の男の子の施術録
3日前、突然右の腰が痛くなる
中高生の子供の腰痛のケースは、ほぼスポーツなどによる故障が原因で腰痛になる場合が多いのですが、今回はスポーツなどは特にやってないのに突然右の腰に痛みが出て施術して欲しいと連絡がありました。
動いている姿は至って普通
事前に症状を聞いている場合は、患者さんが玄関から入って靴を脱ぐ動作や待合のソファまでの動作を確認しますが、今回の男の子は特に痛がってる感じもなく笑顔で挨拶もしてくれて普通に見えました。
スタッフが問診して分かったのが、動いてると特に問題なく、寝てるとすぐにズキズキ痛むとのことでした。 腰痛にも色々ありますが、大抵は動かすと痛くなることが多く、今回のように横になった安静時に痛くなるケースは少ないと思います。
ただ、現在受験生の本人にとっては一大事です。身体が休まるはずの寝る体勢が辛いとなると勉強の集中力も欠けるはずです。
姿勢や体の検査から感じたこと
まず立位で後ろ姿を見た瞬間、誰が見ても分かる程の身体の傾きでした。 左下肢に体重を乗せ、左肩は上がり、真横から見ると寛骨は後傾し猫背の状態。
両肩峰も前方にあって、頭部もやや伸展気味で呼吸をするのがやっとの姿勢に見えました。しかし立位体前屈しても痛みはなく、身体を動かして痛むことはありませんでした。
腰椎棘突起の位置で重心の確認をする検査では棘突起は大きく右に流れ、腸骨稜も左側が後傾し左重心だと腰椎と腸骨からも確認できます。
両下肢の関節可動域を調べる検査では、右膝に比べると左膝に屈曲運動の制限と股関節は左側が外旋運動の制限があり、左右の大腿骨の関節可動から寛骨の捻じれが確認出来ます。
仰臥位で行う上肢の検査をしようとすると、右腰部に強い疼痛が起こり苦痛な表情に変わりました。とても仰臥位の姿勢を維持出来そうになかったので、両膝を90°ぐらい曲げてもらい寛骨を後傾させることで痛みは治まりました。
この両膝屈曲状態で上肢の検査をすると、両方の肩関節屈曲に制限があり特に右肩関節は強い屈曲制限がありました。逆にいえば伸展運動優位になっていることが分かります。
肩関節の運動制限がある部分に目が行きがちですが、彼の場合強い伸展運動をさせている広背筋がこの右腰部の痛みに関係しているのではと推測しました。
まず施術の前に考えること
この男の子の身体全体の筋骨格の状態をチェックし歪みを把握して、施術をする事は特に難しいことではありません。身体の歪みが改善すれば、症状も改善が期待できます。 しかし、彼が何故この痛みに至ったかを知る事もしくは教えてあげる事がとても重要だと思います。
お年寄りなら、これまで頑張って使った身体に変調をきたすこともあります。スポーツをしたりする人も関節を酷使することで疼痛が出ることもあります。
しかし、特にスポーツもせず勉強しかしていない彼があれだけの疼痛が出るのは何らかの原因があり、その原因は私も彼も知らないといけないと考えました。 施術しながら彼の日常生活をヒヤリングして、何が原因かを探ります。そしてその原因が、施術する際のヒントにもなることもあります。
今回はすぐに受験勉強中の姿勢が極端に悪い事が分かり、極端に悪い姿勢を続けると必ず痛くなったことも判明しました。施術で身体を調えてあげて、勉強中に椅子の座り方指導をすれば大丈夫だと思い施術に臨みました。
急性症状の施術は出来る限り簡単に
施術は検査の情報から右の広背筋や左の大腿四頭筋を弛緩させる手技を中心に組み立てました。
仰臥位では腰の痛みで膝が伸ばせないため、仰臥位で両膝を屈曲してもらうと痛みが少なくなり、体の緊張が取れるので施術がしやすくなります。
この状態で右の三角筋前面や烏口腕筋など肩関節屈曲筋を緊張と広背筋や大円筋などの伸展筋を弛緩させる手技を5〜6回行い、上肢の可動を再度確認する目的で再検査すると、肩関節の屈曲、肘関節の伸展、手関節の掌屈が左右ほぼ同じになりました。
この時点で痛みの有無は関係なく、上半身の左右差に影響を与えていた広背筋の左右の緊張差はほぼ均等化されたと確信しました。
まだ痛いかなと思いつつ、この時点で両膝を伸ばしてもらうと全く痛みがなくなり、ほっとしたのか本人も自然に笑顔になったので、私も少し緊張感から解放されました。
あとは、左の大腿神経支配の筋の緊張を弛緩させる手技を行いましたが、急性症状という事を考慮し施術は10分弱で終わり、あとは椅子の座り方など日常生活指導をしてこの日は終了しました。
痛みを局所だけではなく、全体で把握すること
今回の症例で私の考察は以下のようになります。
- 左の膝関節は右と比べ屈曲が制限されている。従って左の大腿四頭筋は緊張し、その支配神経である左側の大腿神経は興奮している。
- 同じ左側の大腿神経支配の腸骨筋や大腰筋は右より左が筋緊張する。さらに大腰筋が股関節屈曲作用があるため左寛骨が後傾する。
- 寛骨に付着する腸骨筋や腰椎椎体に付着する大腰筋の筋収縮により、腸骨稜は左が下がり椎体は大腿骨小転子方向に左回旋し引きつけられる。
- 腰椎棘突起も回旋し正中線から外れ、後方から確認すると棘突起は右に流れる。
- 非重心側の腸骨稜は本来の位置のため、必然的に上部腰椎から下部腰椎になるに従い非重心側に腰椎は流れやすく、L5、S1、S2の神経に影響を与え坐骨神経系や脛骨神経系の筋肉に影響を与える。
- 広背筋の起始部は胸椎の5番から腰椎の5番の棘突起、腸骨稜、仙骨に付着し、停止部は上腕骨にあることで、広背筋の左右の緊張差があることは上半身の動きに大きく影響を与えることが分かる。今回の場合も右が肩関節屈曲に制限がある事で、右の広背筋が緊張していることが目で見て分かる。
今回の様に右の広背筋に緊張が起こっている場合、左の大腰筋が緊張し左重心だから右の広背筋が緊張した訳ではない。左重心で左の広背筋が緊張する可能性もある。
左の大腰筋が緊張し椎体が回旋し傾いたことによって影響を受ける筋肉は、右の大殿筋やハムストリングスであり脊柱起立筋群である。広背筋は直接大腰筋の影響は受けないが、広背筋の起始となる腰椎棘突起、腸骨稜が本来の位置にないため、広背筋にとって筋作用は出来なくなる。
もし仮に大腰筋の拮抗筋が広背筋だったのなら、必ず決まり切った法則性で歪みが生じるはずである。
分かる範囲、出来る範囲を正常にする
彼の右腰部の痛みは、右のL3〜5の高さの筋が痛いと訴えていましたが、私が分かることは骨格と骨格筋が左右対称性に機能しているか否かしか分かりません。
病院のようにMRIやレントゲンなどを用いて筋や軟骨や靭帯や骨などの画像診断は出来ないのです。従って彼の何筋が問題であるとか、この腰椎とこの腰椎が狭くなりこの神経に影響が出ているなど残念ながら分かりません。
分かると言えば、彼の訴える疼痛の場所にある筋肉が広背筋と脊柱起立筋群ぐらいで、必ずしもその筋が疼痛の原因とも言い切れません。
- 唯一分かっている事は、痛みのない正常な時は脊柱は正中線上にあり、四肢の運動機能が正常に動かす事が可能であるという事。
- 逆を言えば、筋肉痛や神経痛や関節痛などの疼痛がある時は、脊柱が正中線上になく、四肢は左右非対称性に動いてしまうという事。
本当にこの事しか分からない。しかし筋骨格系の機能に関して見えることは沢山あり、患者さんの苦痛を取り除いてあげる1つの方法だと思います。
年齢に関係なく身体の使い方で痛みは出る
今回の患者さんはまだ若いですし勉強中の姿勢を気をつければ、これほどまで強い痛みは出ないのではないかと思います。
若くても、身体の使い方1つで痛みは出ます。痛いと元気も出ません。
お年を召しても元気な方は身体がよく動きます。そして健康です。
年齢は関係ありません。筋骨格がどうなってるかが重要です。